1. 痛風とは?
痛風(gout)は、主にヒトに見られる代謝性疾患で、体内において**尿酸(にょうさん)**が過剰に蓄積されることで発症します。尿酸はプリン体という物質の代謝産物で、血液中の尿酸濃度が高まると「高尿酸血症」となり、やがて関節に尿酸塩(尿酸の結晶)が沈着して炎症を引き起こします。これが「痛風発作」と呼ばれる強い関節痛の正体です。
ヒトの痛風の主な特徴は次の通りです:
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足の親指の付け根に激しい痛み
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関節が赤く腫れる
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尿酸値が高い(7.0mg/dL以上)
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尿酸塩結晶が関節液に確認される
2. 猫や犬に痛風はあるのか?
結論:人間のような痛風は基本的に発症しない
犬や猫では、ヒトと異なる代謝経路をもつため、体内で尿酸があまり蓄積しません。これは、彼らの肝臓が尿酸を「アラントイン」という水溶性物質に分解できるためです。
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ヒト:尿酸 → 排泄しにくい → 血中にたまりやすい
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犬猫:尿酸 → アラントイン → 尿で簡単に排泄される
このため、犬や猫ではヒトのような「高尿酸血症」や「痛風」は極めてまれです。
ただし、「痛風のような症状(関節炎や関節内の結晶沈着)」がまれに起きることがあります。それが以下に説明する「尿酸塩結晶の蓄積」や「偽痛風(ピロリン酸カルシウム結晶性関節炎)」です。
3. 犬や猫に起こる「痛風様症状」の原因
(1) 尿酸塩尿症(尿酸アンモニウム結石)
特定の犬種(特にダルメシアン)では、尿酸の代謝に異常があり、尿中に尿酸や尿酸塩が多く排出され、これが**結石(しばしば膀胱結石や腎結石)**として沈着することがあります。
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主な犬種:ダルメシアン、イングリッシュブルドッグ
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主な症状:血尿、頻尿、排尿困難
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結石の主成分:尿酸アンモニウム
※ただし、この状態はヒトの痛風とは異なり、関節には影響しません。
(2) 偽痛風(ピロリン酸カルシウム結晶性関節炎)
犬では、ピロリン酸カルシウム結晶が関節内に沈着し、炎症を起こす「偽痛風」がまれに報告されています。
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関節に痛み、腫れ、運動障害
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高齢犬に多い
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特に大型犬で稀に見られる
ただし、この疾患は非常にまれで、痛風と明確に区別されます。
(3) 関節炎や免疫性関節症(自己免疫性)
痛風と誤認されがちな関節の腫れや痛みの原因として、以下の疾患もあります:
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変形性関節症(OA)
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免疫介在性関節炎
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リウマチ様関節炎
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感染性関節炎(細菌・ウイルス)
これらは、痛み・腫れ・熱感といった「痛風と似た症状」を呈しますが、結晶性ではなく炎症性、あるいは変性性の病気です。
4. 犬猫の「痛風様症状」の診断方法
以下のような検査が実施されます:
■ 血液検査
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尿酸値(通常は上がりません)
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炎症反応(CRPなど)
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免疫関連マーカー
■ 尿検査
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尿pH、尿比重
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尿中結晶の確認(シュウ酸カルシウム、尿酸アンモニウムなど)
■ レントゲン・エコー検査
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関節の変形や骨棘、結石の有無を確認
■ 関節液の採取・検査(関節穿刺)
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結晶の有無(顕微鏡下で観察)
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白血球数(炎症性かどうか)
■ DNA検査(犬種によっては遺伝性の代謝異常の特定)
5. 治療法
犬や猫の「痛風様の病気」の治療は、原因に応じた対症療法および根治療法が中心です。
(1) 尿酸塩結石の場合
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尿をアルカリ化する食事療法(pH調整フード)
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飲水量を増やす
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尿酸の生成を抑える薬(アロプリノールなど)※犬で使用
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結石が大きい場合は外科的摘出
(2) 偽痛風や関節炎の場合
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抗炎症薬(NSAIDs)やステロイド
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関節保護剤(グルコサミン・コンドロイチン)
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免疫抑制剤(免疫介在性の場合)
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リハビリ、運動制限
6. 予防策
犬猫における痛風様症状の予防には以下が有効です:
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バランスのとれた食事:高プリン食は避ける(特に結石症リスクの犬)
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飲水量の確保:常に清潔な水を用意し、脱水を防ぐ
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定期的な健康診断:尿検査や血液検査で早期発見
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肥満防止:関節に負担がかかるため
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遺伝性の病気に注意:特定犬種では繁殖前にスクリーニング検査
7. 猫の場合の注意点
猫では痛風に類似した症状はさらにまれで、関節疾患の主な原因は以下です:
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変形性関節症(高齢猫)
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関節内腫瘍(まれ)
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外傷による関節損傷
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免疫介在性疾患
結石症(尿路結石)は猫でも多く見られますが、ストルバイト結石やシュウ酸カルシウム結石が中心で、尿酸塩は非常にまれです。
まとめ:犬や猫の痛風は人間とは異なる
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犬や猫は尿酸をアラントインに分解できるため、人間のような「痛風」は基本的に起きません。
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ただし、特定犬種では尿酸塩尿症(尿路結石)が起こることがあり、また関節炎や偽痛風といった類似症状を起こす病気も存在します。
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飼い主は、ペットが関節を痛がったり、尿に異常が見られる場合は、すぐに獣医師に相談することが重要です。
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遺伝的要因の強い犬種(ダルメシアンなど)では、予防的なフード選びと水分管理が特に重要です。
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