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痛風と間違われる感染性関節炎

関節の急性炎症を伴う疾患の中で、痛風と感染性関節炎はしばしば臨床上の鑑別が難しいものとされる。どちらも急激な関節の腫れと強い疼痛を呈し、患者はしばしば「突然の激痛」を訴える。

しかし、両者は病態も治療法も全く異なるため、早期に正確な診断を行うことが非常に重要である。特に感染性関節炎は迅速な治療が行われなければ関節破壊や全身性敗血症に至る危険性があるため、痛風と誤診されることは重大な臨床的過誤になり得る。本稿では、感染性関節炎が痛風と間違われやすい理由、両者の鑑別点、臨床的意義について解説する。

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痛風と感染性関節炎の臨床的共通点

痛風は尿酸ナトリウム結晶が関節内に沈着することで炎症を引き起こす疾患であり、典型的には中年以降の男性に多く、第一中足趾関節(MTP関節)に好発する。患者は突然の関節痛、発赤、腫脹、熱感を訴える。

一方、感染性関節炎(化膿性関節炎とも呼ばれる)は、細菌が関節腔に侵入して起こる急性の関節炎で、代表的な病原菌には黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、グラム陰性桿菌などがある。症状としては発熱、全身倦怠感を伴い、単関節に激しい疼痛と腫脹を呈する。好発部位は膝関節が多いが、股関節や肩関節など、ほぼ全ての関節に発症し得る。

このように、痛風と感染性関節炎はいずれも急性関節炎の症状を呈するため、外来初診の段階で誤診されやすい。

痛風との鑑別が難しい理由

痛風と感染性関節炎の鑑別が困難な理由には、以下の点が挙げられる。

  1. 症状の類似性
    両者とも急性に発症し、強い関節痛と腫脹を伴う。特に発症初期に発熱がない場合、感染を疑う契機が乏しくなる。

  2. 血液検査所見の非特異性
    白血球増多やCRP上昇などの炎症反応はどちらにも見られるため、単独では判断がつかない。

  3. 高尿酸血症の存在
    感染性関節炎を合併している患者が偶然高尿酸血症を有している場合、痛風と誤診されやすい。高尿酸血症があっても必ずしも痛風とは限らない。

  4. 患者背景の類似
    高齢者や免疫抑制状態の患者では、症状が非典型的であることがあり、鑑別がより困難になる。

臨床上の鑑別ポイント

痛風と感染性関節炎を正確に鑑別するためには、以下の観点が重要となる。

1. 関節穿刺と関節液の検査

感染性関節炎を疑った際には、関節穿刺による関節液の検査が最も重要な診断手段となる。関節液の性状や白血球数、グラム染色、培養検査によって感染の有無を評価できる。

  • 痛風では、関節液に針状の尿酸ナトリウム結晶が観察される。グラム染色は陰性で、白血球数は通常数千~数万/μL。

  • 感染性関節炎では、関節液は混濁し、白血球数が5万/μL以上と著明に上昇し、グラム陽性または陰性の菌が染色されることがある。培養陽性は確定診断となる。

2. 発熱と全身症状の有無

感染性関節炎では発熱や全身倦怠感、寒気などの全身症状を伴うことが多い。一方、痛風では関節局所の症状が中心であり、全身症状は比較的軽微である。

3. 既往歴とリスクファクター

感染性関節炎は以下のような背景を持つ患者に多く発症する:

  • 人工関節置換術後

  • 糖尿病

  • 慢性腎不全

  • 免疫抑制薬使用者(ステロイド、抗リウマチ薬など)

  • 高齢者

  • 関節穿刺や注射歴がある者

これらのリスクが存在する場合、痛風と診断する前に感染性関節炎の除外が必要となる。

痛風と誤診された感染性関節炎の症例

実際の臨床では、感染性関節炎が「痛風」として診断されNSAIDsのみで経過観察された結果、数日後に状態が急変し敗血症に至ったという報告が複数存在する。特に高齢者では症状が非典型的であることも多く、発熱が顕著でないために感染性の可能性が見落とされがちである。よって、治療開始前に関節穿刺を行うことは極めて重要である。

治療と予後の違い

痛風はコルヒチン、NSAIDs、ステロイドなどによって比較的速やかに症状の改善が見込まれる。尿酸降下薬は長期管理に用いられる。

一方、感染性関節炎は緊急の抗菌薬投与および関節洗浄、場合によっては手術的治療が必要である。治療開始が遅れると関節破壊や菌血症、敗血症に進展し、致死的となることもある。

まとめ

感染性関節炎は痛風と類似した臨床像を呈することが多く、鑑別が困難である。痛風と診断された場合でも、以下のような所見があれば感染性関節炎の可能性を必ず考慮すべきである:

  • 高齢者や免疫抑制状態

  • 発熱や全身倦怠感の存在

  • 典型的でない部位の関節炎

  • 症状の持続や増悪傾向

最も確実な鑑別法は関節穿刺と関節液の検査である。関節穿刺に抵抗がある場合でも、感染性関節炎のリスクがある症例では積極的に穿刺を行い、的確な診断を下すことが、患者の予後を大きく左右する。痛風と診断する前に「感染ではないか」を常に頭に置き、慎重な対応が求められる。

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