この記事は還暦を迎えた男性に書いていただいています。
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会社の定期健康診断で、尿酸値が高い(8.0~9.0の範囲)と言われ続けて10年程経った頃でしょうか。ある春先の休日、出掛けた都内の美術館の階段を昇っていたときのことです。
「あれっ」という軽い痛みが左の足首に走りました。どこかで足を挫いたのだろうか、その時はそう軽く考えていました。しかし、帰宅するころには足首の内側、踝(くるぶし)の下あたりにはっきりとした痛みが出たのです。そしてその夜には、随分腫れも酷くなりました。
仕方なく翌朝、近所の整骨院に出掛けました。すっかり足首周辺が腫れあがり、靴も履けない状態になっていました。その時、骨接ぎの医師が発した言葉に驚くことになります。
「これ、もしかすると、痛風かもしれない。ちょっとここでは対処は無理かも」
「まさか、そんな」
痛風は足の親指付け根に出るものと疑っていなかった私は、その言葉が俄かには信じられず、その足で整形外科に駆け込みました。だって、この時でもまだ捻挫と思っていましたから。しかし、足を引きずりながら診察室に入ってきた私を見た整形外科のK医師の最初の質問は、「尿酸値は?」でした。
「この前の健診では、8.8くらいだったかな」
私の言葉を聞き終わるか終わらないうちに、医師は、「はい、痛風だね」と軽く言い切ったのです。なんでよく診ないうちからわかるの?「はぁ?」という私の表情をあざ笑うかのように、医師は「はい、痛風」。そう再度宣告して、私にダメを押しました。仕方なく言われるがまま、消炎の注射をしてもらい薬を処方してもらいました。
安易な考えがことをさらに悪化させる
時すでに遅し。あとから思えば、これは起こるべくして起きてしまったこと。それから暫くは、足を引きずりながら、クルマを運転し通勤しなければなりませんでした。幸い、痛い足は左なので、クルマは運転できました。が、仕事先では松葉杖をつきながら、或いは足を引きずりながら、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしなければなりませんでした。惨めったらありません。
暫くして腫れが収まると、尿酸値を下げる薬(ベネシッド錠250mg)を処方されました。普段行動を改めない自堕落な私も、さすがに一念発起するしか手がありません。好きなアルコールをやめ、高カロリーのランチをやめ、毎日コンビニの盛り蕎麦三昧の食生活を送ること半年。その甲斐あってか、症状は回復しました。少なくともそう思ったのです。
しかし、ここからが良くなかった。そう、私は自分勝手に、もう痛風は治ったと判断してしまったのです。舐めていたのです。いつの間にか薬もやめ、以前と同じような食生活に戻っていました。お酒も普通に飲みました。
1、2年経った頃でしょうか。ある日突然、それはまた来たのです。足が腫れて痛くなったのです。行きがかり上、また整形外科のK医師のところへ診てもらいに行きました。そして、前と同じように、注射を打ってもらい、薬をもらい、何度か通院しました。そして痛みが治まり、尿酸値が正常値に収まりました。
が、中々懲りない私。良くなるとまたもやこれを忘れてしまうのです。そう、元の木阿弥です。尿酸値が高くなるメカニズムをよく理解していなかったことも大きな原因だったかもしれません。
改心する以外、選択の余地なし
そうして愚かにも、そんなことを何度か繰り返しました。発症するのは何故か、春先から初夏にかけての季節が多かったように思います。その内に、「あっ、来たな」と兆しが分かるくらいになりました。そうして医者に行くと「また出ちゃたみたいです」そう茶化しながら堂々と症状を報告しました。注射を打って、薬を飲めば落ち着くんですから。
が、温厚なK医師も、しまいには堪忍袋の緒が切れたらしく、私の尿酸値が9.5に達するに至って、
「あなた、このままじゃ死んじゃうよ。死にたいの? いい加減にしなさい」
「痛風は、一生付き合っていくしかないんだから」
そう言い放たれてしまったのです。
慌てて家に帰り、「痛風で死に至るケース」をネットで検索したりしました。
「そうかぁ、痛風でもひどくなると死ぬのか」
痛風が元で別の重篤な病(合併症)に罹って死に至るのは余程のことのようですが、そう認識を改めざるをえませんでした。痛風がきっかけで腎臓がやられて人工透析になり、終いには…死。気がつくのが遅すぎますよね。
その医師の言葉が身に染みて、それ以来、心を入れ替えると、定期的に通院し医師と用量を相談しながら、薬を処方してもらい、毎日欠かさずにこれを服用するようになりました。最初の頃は、朝晩3錠。やがてそれが2錠となり、最近は1錠にまで減りました。
本当はいっぺんに半年分くらい薬をまとめてもらいたいところなのですが、いづれにしてもそのおかげで、ここ数年尿酸値は正常範囲内に収まっています。結局は意識の問題なのです。
食事については、あん肝、干物、それからモツ類は、出来るだけ避けるようにしています。ビールその他のアルコールは歳のせいなのか、少し控えめになったようです。
が、以上の生活改善以外は日常生活に特に気を遣う点はなく、平常・平穏な毎日を過ごすことが出来ています。
さてさて、とんでもない痛い目に合うのは勿論のこと、仕事や私生活に支障をきたすような事態はなんとしても避けたいものです。長らく放置していたにも関わらず、他の病気を併発しなかった私は運がよかったにすぎません。生活改善をしないで尿酸値を放置すればまた上がっていく。これは間違いない。認識として重要なことは、痛風は、病気の「本丸」ではないということ。入り口の一現象に過ぎないということ。その先に待っているかもしれない、もっと恐ろしい病気こそが怖いのだと思います。
将来、医療が更に進歩して痛風が撲滅でもされない限り、この病気(痛風や高尿酸血症)とは一生付き合っていかなければならないものなのです。間もなく還暦を迎えようかという今、私はようやく自覚するのです。